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「ねぇ、ミスティカンツァにはどんな野菜を入れる?」
「なに、それ。ミスティカンツァなんて知らないよ」
「ミスティカンツァって、ほら、料理名で……、このイタリア語の響き、 私は好きなのだ けれど、本当に聞いたことないの?」
先週末、在日イタリア人の友人に会った時のこと。 ”ミスティカンツァ(Misticanza)”というのは、平たく言え
ば野草のミックスサラダ。
ただしこういう呼び方をするのはイタリアでも 中部地方に限られています。ですからイタリア人と言えども、この友人の
ようにナポリで生まれ育ち、大学卒業後はミラノで就業という、中部地方 を素通りした彼が、この料理名を知らないという事は充分あり得るのでし
た。
イタリアの国民性を表わす言葉に”カンパニリスモ”という単語があり ます。生まれ育った土地を愛する”郷土愛”を意味しますが、これは村や 町の中心にある教会の、その鐘(カンパーナ)に由来する単語。
つまり、 その昔、鐘楼に登って見渡せる範囲を中心とした集合体で結束していた人々
の意識が今でも受け継がれているようなのです。
イタリア人は生まれ育った土地に愛着心が強い分、他の地方のことにつ いては一般的に関心が薄いのです。それは冷たい無関心さとはちょっと違っ
て、自分が住んでいる環境に充分に満足して心が満たされているからこその心の在り様、と私には感じられるのです。
もっとも彼が単にミスティカンツァという料理名を知らなかっただけで、そんなに大げさなものではないのかもしれません。ただ、トスカーナの友人達はローマ周辺である期間しか採れない野菜”プンタレッレ”を知らなかったり、日本ではすっかり有名になったバルサミコ酢でさえ、産地であるモデナ以外の人達はたいして関心がなかったり、時々、あら?と思う事
があって、そんな時”カンパニリスモ” という単語をふと思い起こすので す。
さて話をミスティカンツァに戻しましょう。 中部地方のアブルッツォ州では”ミスティカンツァ”を拡大解釈して、
ミックスしたものをなんでもこう呼ぶ傾向もあるそうですが、本来のミス ティカンツァは、自然に野に生えている香り高い野草だけをミックスした
野趣溢れるサラダ。 たとえば野生のルコラ、フィノッキオ(英語でフェンネル)、チコリ、
ラツゥゲッラ(ちしゃの1種)、スカンポ、カブラキキョウなどなど。
という訳で‘ミスティカンツァ’というリズミカルな音の響きを聞くと、 トスカーナやウンブリア州で、籠をかかえて野草摘みをした時の田園地帯
の豊かな自然が思い出されるのです。足元にはえる野生のルコラを無造作 に摘んでちぎって噛んだ時のほろ苦い味や、草の香りのするゆるやかな風
の流れや、遠くに聞こえる鳥のさえずりや……。
残念ながら日本でこのサラダ向きの野菜で手に入るものと言えば、ルコ ラとラディッキオ、せいぜいチコリくらいでしょうか。私はこれに最近スー
パーに出回りつつある茎の赤いビーツの葉や、イタリアンパセリの葉先な ど思いつく限りの香り葉野菜を混ぜ合わせ、ミスティカンツァ気分に浸り
ます。
ドレッッシングは、白ワインビネガーと塩をふり、オリーブ油を回しか けるだけ。イタリアでもっとも一般的かつシンプル、そして的を得たサラ
ダの食べ方です。ワインビネガーの替わりの酸味にレモン汁をふりかけた り、混ぜ合わせることもあり、また時々はドレッシングにアンチョビーも
加えます。ミスティカンツァに入れる野菜は香りが強いので、アンチョビー を加えても味が負けなくておいしい、と土地の人は言いますから。
日本人の私からミスティカンツァの説明をひとしきり聞き終わった彼は 「勉強になりました!」と肩をすくめながらニッコリ。
イタリア人が知らないイタリアの食べ物や料理について知っていた事で、 ちょっぴり得意気な私。きわめて単純な精神構造ですけれど……。
* アンチョビードレシングのミスティカンツァ風 材料(作りやすい分量)
ルコラ、チコリなど香り高い葉野菜
イタリアンパセリ 各適量
ドレッシング アンチョビ(フィレ) 2枚
レモン汁 小さじ1強
白ワインビネガー 小さじ2
オリーブ油 大さじ4
塩(アンチョビの塩気に応じて) 少々
1 ドレッシングを作る。アンチョビは包丁で細かくたたいてボールに入れ、
レモン汁、オリーブ油を加えてのばす。味見をして塩味が足りなければ
塩を加える。
2 ルコラなど好みの香り野菜を適当に手でちぎる。チコリなどは包丁で
細切りにする。イタリアンパセリは葉先をちぎる。
3 の野菜の水けをしっかりきって、いただく直前にのドレッシングで
さっとあえる。 |
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