イタリアのおいしい話 #20

「 アントネッラの"パンツァネッラ"」





カンポ広場
 予定通り、7月末からイタリアに滞在しています。 今回の滞在先はトスカーナ州中部の古都シエナ。中世の雰囲気を色濃く残すこの街は、 すり鉢状の美しいカンポ広場と、そこで繰り広げられる"パリオ"と呼ばれる夏祭りで 知られています。

 ホームステイ先のアントネッラの家は、街の中心となるその
から歩いて ほんの1分ほど。以前もこの広場からわずか6,7分ほどのパラッツッオ(建物・マ ンション)に住んでいたのですが、去年さらに近いところに引っ越したので、その新 居を訪ねての滞在となった次第。  カンポ広場の周辺は14世紀の建物が多く残るシエナの中でも一番歴史ある地域。 ここに移り住めたことは、彼女の言葉を借りると「ミラコロ(奇跡)!」とか。家は 親から子へと受け継がれる為、たとえお金があってもこの一帯で家が売りに出される ことはほとんどなく、資金と幸運のふたつが揃わないとシエナのカンポ広場近くに住 むことは不可能なのだそうです。

 アントネッラは高校の化学の先生なので今は夏休み中。マンマから受けついだ伝統 的なレシピに、彼女ならではの工夫を加えた現代的な家庭料理が得意で、時々、料理 を教えてもいます。ご主人のステファノは銀行マン。勤務先が近い為、プランツォ (昼食)も家に一度戻って一緒に食べるのが日課です。

 そんな彼女の家のキッチンで目をひくのは、壁から下がった大きな布袋。この中に 重そうにいっぱい詰め込まれているのは、残りもののパンです。トスカーナのパンは、 塩をいっさい入れないイタリアでもかなり特色のあるパンで、長さ40cmくらいの 大きななまこ形をしています。焼きたてでもしっかりと堅い皮をしているので、2, 3日もたつともうカチカチ。歯がたちません。  その堅くなったパンを利用して、この地方にはバリエーション豊かな残りものパン 料理がたくさん生まれました。”パンツァネッラ”もそのひとつ。初夏から夏にかけ て食べられる、パン入りのトスカーナ風サラダです。

    作り方は、まず堅くなったパンを水に浸して柔らかくもどしてギュッと絞ります。 トマトときゅうりを適当に切り、紫玉ねぎは薄切りにします。紫玉ねぎはなければ普 通の玉ねぎを使ってもよいのですが、こちらのほうがデリケートな味になります。こ れにアンチョビーとケイパー、バジリコを加え、味つけはオリーブ油とレモン汁、塩 だけ。調味料がしみたパンで野菜をあえることで、おいしさが全体にいき渡るのです。 ポイントはとにかく堅くなったパンを使うこと。ふわふわの食パンでは水に漬けた段 階で溶けてしまい、まったく別のものになってしまいます。

 パンツァレッラをレストランではアンティパスト(前菜)として出しますが、これを プリモ(第一の皿)として食べるのが、トスカーナの家庭流。

   例えば、昨日のこの家のプランツォはこんな具合。  まずパンツァネッラがたっぷり出ます。ちょうど冷たいパスタのような位置付け。 その後に、モッツァレッラとトマトの盛り合わせた皿、ジャムを添えたペコリーノ・ チーズ、生ハムとメロンの皿が並び、ワインを飲みながらそれらをゆっくりと味わい ました。頭に刷り込まれている、前菜とプリモの関係が、家庭の中ではとても自由な ものであることを知ります。

 アントネッラの家の自慢は、カンポ広場に近い事ともうひとつ、広いテラッツァ( テラス)。100m2 はあるかと思われるテラスの、小さな広場をはさんだ目の前に はプロヴェンザーノと呼ばれる教会。そのはるか向こうにはトスカーナの人々が”世 界一美しい田園”と自慢する穏やかな丘と緑が広がり……と、最高のシチュエーショ ン。季節の良い時期には、昼も夜もこのテラッツァで食宅を囲みます。昨日のパンツ ァネッラのプランツァも、もちろんここで。

 目の前の教会からは、時折、美しい鐘の音色が響きます。 美しいトスカーナで過ごす申し分のない夏のバカンツァ。 連日40度近い猛暑を除けば....



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