イタリアのおいしい話 #27

「 冬野菜の王様  カルチョーフィ 」



 先々週からイタリアに滞在しています。テレビも電話も、新聞もないア グリツーリズモに滞在していた為、いつものようにインターネットで原稿 を送ることができませんでした。という訳で勝手ながら前回はお休みさせ て頂きました。お許し下さい。

 イタリアに、持ち運びできる1.5キロ程度のパソコンを抱えてくるように なってもう6年近くになるでしょうか。今ではたいていの事にはへこたれなくなりましたが、慣れるまでには少し時間がかかりました。パソコンの 使い方ではなく"それを取り巻く曖昧な状況"とでも言ったらよいでしょう か。

 アメリカンスタイルの近代的4つ星、5つ星ホテル以外では、ホテルと言えども回線の具合が悪いのかスムーズに送受信できないことがあるのです。古いタイプの安ホテルですと、インターネット通信に不可欠な電話回 線を部屋に確保することがまず無理だったり。田園地帯にある農家風民宿 とでも言うアグリツーリズモでは、電話が部屋にないのはもちろん、コン セントそのものが壊れていて電気がきていなかったことも。

 ホームステイ先のイタリア人家庭の状況はいろいろです。最近は自宅に パソコンを置いてあるお宅が多くなっていますから、電話回線を確保する ことはたいだい可能です。ただ、それが1回でうまくつながるかというと、 運次第。15世紀、16世紀などという骨董品のような素敵な建物に住んでいるお宅では、内装こそモダンでも、電話回線を含む内部のインフラは かなりアンティークになっているでしょうか。

  もっともプロバイダーの問題もあったり、と他にも複雑な要因が重なりあっている可能性もあり、 「ある時はSi(イエス)、でも5分後に送ろうと思うとNon(ノー)」と いう理不尽な状況がままあるのです。いつでも100%駄目なら諦めがつ くものの、スーッと簡単に送受信ができたりもするので、まったく始末が 悪いのです。

   何故かって、原因を追求しても無駄。このなんとも不条理な状況を、時 としてそのまま丸ごと飲み込む。と言っても、完全に諦めてしまうことも ない。今は駄目でもまた少したつと状況が変わってうまくいくかもしれな いのだから、と。

  そんなイタリアで暮らしていく上で結構役に立つタフな精神が、パソコンと格闘していくうちに少し身についたような気もしています。  余談が長くなってすみません。テーマは"おいしい"でしたね。

 さて晩秋から春先にかけて、イタリアの市場にはカルチョーフィという 野菜がいつでも山積みになっています。

 カルチョーフィ(Carciofi)はキク科の多年草で、英語名はアーティ チョーク。日本名では‘朝鮮アザミ’と呼ばれていますが、その名のようにアザミに似た花をつけます。食用にするのは花が咲く前の若いもので、 茎を5、6cmくらい残して切り落としたら、上部を1/2 くらい切り、 さらに外側の堅いがくを1枚ずつ、柔らかい芯の部分がでてくるまではが していきます。

  そして縦2つに切ったら、小さなスプーンなどで中の細い うぶ毛のようなものをくり抜いて取り除いてから使います。アクが強く、 下ごしらえしていると指先が黒くなってくるくらい。その為に、切った端 からレモン汁を落とした水か酢水に漬けていきます。

 そうそう、今はミラノに滞在中。毎週、土曜日の朝はサンタンブロージュ (San Ambrogio)という地区の近くに市場が立つので、まだ人気の少ない ミラノの街を散歩がてらふらふら歩いて覗いてみましたら、ありました、 ありました、カルチョーフィ。

 ヴィオレッティ(Violette)という紫色をしたローマ産のもの、プーリア から送られてきた紫色と緑色がいり混じったもの、サルデーニァ産と書か れているほとんど緑色をしたがくの尖ったものなど何種類かのカルチョー フィがどこの店にも並んでいました。1個が1ユーロくらいだったでしょ うか。

   一般的には、紫色の丸い形をしたローマ産のものと、トゲのある先の尖っ たリグーリア産のものが味がよいとされていますが、八百屋さんに話を聞 くと、「何ていってもサルデーニァ産。生でも煮ても食べられる。ローマ産のものは煮る専門。生じゃぁ食べられないよ」とこと。  カルチョーフィは他の野菜にはない独特の旨みがあって、歯ごたえも良く、 しかも鉄分が豊富とあってイタリア人はこの野菜が大好き。ひき肉、刻んだ ハムやイタリアンパセリなどを混ぜて詰め、オーブンで焼いた”カルチョー フィ・リピエニィ”はローマの名物料理ですが、イタリア中で親しまれて います。

   他にもソテーしてオムレツに入れたり、衣をつけて揚げ物にしたり、タル ト生地にチーズと詰めて焼き上げたりと、メニューは実に多彩です。

 八百屋のおじさんの話にもあったように、新鮮なものは生で食べても結 構おいしい。ごくごく薄く切ってレモン水にさらし、これも薄くスライス したパルミジャーノとざっくり混ぜ、レモン汁と塩、オリーブ油をふって サラダ仕立てにします。

 イタリア人に負けないくらいカルチョーフィ好きな私が特に好きなレシ ピは、フィレンツェでリストランテのオーナーシェフでいらしたパオロさ んから習ったシンプルなソテー。

 下ごしらえの仕方は同じ。8等分くらいの縦くし切りにします。生ハム、 またはパンチェッタ(ベーコンでも)、あるいは普通のロースハムでもと にかくその時台所にあるどれかを細い切りにします。

  オリーブ油でにんに くを香ばしく炒めたら取り出し、生ハムと一緒にカルチョーフィを入れて 柔らかくなるまでじっくり炒め合わせます。塩と白ワインをふって少し煮 詰め、イタリアンパセリのみじん切りをたっぷり散らしたら出来上がり。 不思議と白いご飯にも合いそうなおいしさなんです。

 イタリアンパセリを始めとするハーブ類やルコラ、ジャンボピーマンな ど以前にはなかった西洋野菜が日本でもずいぶんと身近になってきました。 だたカルチョーフィはまだまだ。輸入ものが高級スーパーにほんの少し。 しかも1個500円〜600円と値段が高いうえに、思い切って買ってみるとがっかりすることが多いのです。がくをむいていくと食べるところが ほとんどなかったり……。

   カルチョーフィは他に変えようのない、代用のきかない個性派野菜です。 レシピを教えてくれたシェフやマンマ達に「日本に帰ったら何に替えたら よいかしらん?」と聞くと、皆一様に凍ってしまう。でも、仕方ありませ ん。本当にそうなのですから。

 それだけに日本のスーパーで気軽に買えるようになるのを、心待ちに している私です。    

ps カルチョーフィの写真は私のホームページ「イタリアの食材」の
   項目をクリックすると見ることができます。



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