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先週から晩秋のローマに来ています。 パリオリというボルゲーゼ公園の裏手に広がる地区に滞在していますが、 ここはローマでは珍しく緑の多い一帯で、メインストリートの両側にはプ ラタナスの並木が連っています。
そのプラタナスの葉が落ち葉となって歩 道を彩り、またテレビの番組は白トリュフの話題で盛り上がっています。
ポルチーニから季節が1歩進んでトリュフに移り、こんなところからも 秋の深まりを感じるイタリアです。
日本でなじみのあるトリュフという名前はフランス語。イタリア語では タルトッフィと言います。
フランス産同様、白と黒の2種類があり、黒トリュフはトスカーナ州や ウンブリア州など山あいの多い中部イタリアが産地の中心ですが、白トリュ フとなるとフランス寄りの北の地方、ピエモンテ州はアルバという地域が とりわけ有名です。
アルバの町のメインストリートにはこの季節、両側に白トリュフ専門の 屋台がずらりと並ぶそう。トリュフは特別に訓練された犬を連れて森に分
け入り、犬が匂いを嗅いで探し出します。ちなみに昨日のぞいた食材店の ウインドーに飾られていた黒トリュフは1キロ約7〜8000円。白トリュ
フのほうは1キロ2万円以上もしていました。
白トリュフは黒トリュフよりさらに香り高く高級な食材なので、専用の スライサーで透けるようにごく薄く削り、レストランではどのくらい白ト
リュフをかけたか、そのグラム数で値段が変わったりするくらい。
いただき方としては手打ちのパスタやリゾットの上にふんわりとかける のが一般的で、ほかにも相性の良い卵料理にかけたりもします。
ある時、白トリュフをフィレンツェの市場で1キロ近く手に入れ、これ からホームステイをしようというローマの友人宅にお土産として運んだこ とがありました。
レストランで薄く削った白トリュフは何回かお目にかかっていましたが、 ごろんとした塊を手にするのは初めて。ところどころ泥汚れのついた、ベー
ジュ色の土の塊りのようなごつごつしたいくつかの白トリュフを新聞紙で そっと包み、フィレンツェからローマへの列車に乗り込みました。
イタリアの2等車は通常コンパートメントと呼ばれる6人がけの小部屋 に分かれていて、通路とガラス戸によって仕切られています。
白トリュフを抱えてコンパートメントの席に座っていると他の5人の客 が次々入ってきて、すぐに「あ、トリュフの匂い!」と感嘆の声があがり
ました。 「そうなんです。持っているのは私なんです」と新聞の包みを指差し、
おいしそうな匂いで一瞬コンパートメント全体が幸せな空気に包まれまし た。
ところが走り出してしばらくするとあまりの匂いに息苦しくなったのか、 一人二人と通路に逃げ出していきます。
思い余って、脱いでいた厚手のコートでトリュフの包みをさらにギュッ と包み込み、匂いの主である自分のほうが通路に出るべきか一瞬迷ったも
のの、その後すぐに冷静に思い直しました。通路にでたらそれこそ車両全 体がトリュフ色に染まってしまうだろうと。
ガラス戸でぴったりと区切られたコンパートメントに居たからこそ、被 害はかろうじてそこでストップされていた訳ですから。
ごく薄いほんの数枚でも香り高い白トリュフが塊で1キロ近くともなる とどのくらい暴力的な香りになるものか想像もつかず、無防備に列車に乗
り込んでしまった迂闊さを恥じ入りながら、身を縮めてローマまでの2時 間の旅。
忘れられない思い出です。
ローマの友人宅に着くと、ご主人が大の白トリュフ好きとあっておみや げの名前を告げるやいなや大歓迎。彼は歯ブラシでそっと静かに土汚れを
落としながら、保存には米に埋めておくのが最適だということを教えてく れました。
その日の夕飯には1つだけを薄く削ってパスタにかけて皆で秋 の味覚に乾杯し、残りはアドヴァイスに従って米の中に。
何日かすると米にしっかりと香りが移り、この米で作ったリゾットはす ばらしくおいしいものでした。
ところで列車の中で白トリュフを包んだコートは、まるで繊維の1本1 本に匂い成分がからみついてしまったかのようにトリュフ臭が抜けず、そ の後2週間近く袖を通すことができませんでした。 |
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