|
今回、ローマでのホームステイ先はパリオリに住むフランチェスカさん のお宅。置いて頂く部屋は、かつては住み込みのメイドさんが使っていた
ところ。出発前に日本から電話した際にも、着いてからも、彼女は私が滞 在する部屋が狭いことを申し訳なさそうに説明し、それでも大丈夫だろう
かと何回も聞いてきました。
確かに部屋の広さは4、5畳といったところ。片隅にソファベッドがあ り、反対側に申し訳程度に書き物ができるくらいの机が作りつけてありま
す。幅はわずか30cmくらいでしょうか。他に腰の高さほどのチェスト がひとつ。でも天井の高さが日本の1.5倍くらいあるので、思ったより
圧迫感がありません。それにシャワーとトイレがついて、さらに廊下から この部屋をつなぐちょっとしたスペースがあって、ここには片側一面に作
りつけの収納があります。 「フランチェスカ、充分よ。メイドさんとしてずっと住みついてしまっ
てもいいくらいよ」と冗談を言うと、彼女はやっとほっとしたような表情 を浮かべました。
インテリアの趣味がよく、シックなグリーン系で統一されていることも 落ち着ける要因。それになにより、うれしいことに机の上は大きく開放さ れた窓! フランチェスカさんの家はパラッツォ(マンション)の最上階、5階に あるので、窓を開け放すと閑静なパリオリの街並みが一望できるのです。 日本のサッシで囲まれた引き戸と違って、こちらはアンティックな木製の 枠組みの観音開きの窓。パーンと外側に押し開くと100%開け放される ので、気分爽快この上ないのです。
日本から着いたその晩、フランチェスカさんは夕食を作って待っていて 下さいました。荷物をほどくのも後にして、まずは温かな夕飯を、とキッ
チンに。
長旅で疲れているだろうからと、‘トルテッリーニ・イン・ブロード’ が最初に運ばれました。これはイタリア中部のエミリア・ロマーニャ州生
まれの、詰め物をした指輪型のパスタをスープに浮かべたもの。優しい味 わい。温かなスープが体にしみ渡ります。
続いて旬のカルチョーフィ(アーティチーク)の煮物。大きく切り分け たカルチョーフィだけを、オリーブ油と塩でシンプルに柔らかく煮た家庭
の味。
そして‘チャンベッラ’というリング型のドルチェ。ヨーグルトをたっ ぷり加え、バターを使わずオリーブ油で焼いた‘チェンベッラ’は、イタ リア中の家庭で親しまれているお菓子。作り方は昨年の秋頃に「オリーブ 油の焼き菓子で」というタイトルでご紹介しました。疲れが少しても取れ るようにと砂糖を多めに加え、いつもよりしっかりとした甘みをつけて焼 き上げてくれていました。 実はこの最初の日の食卓で、ちょっとした失敗をした私。
フランチェスカさんの温かな心使いに感激しながら、まずスープパスタ をひと口。ズズーッ!
あー、おいしい。と同時にキッチンに響き渡った その音を聞いて‘しまったぁ’。
イタリアのマナーでは、スープ類は決して音を出してすすってはいけな かったことを思い出したのです。日本のお蕎麦とはまったく逆で、スープ
を音を出して飲むのは食事中にゲップをするくらいお行儀の悪いこと。そ う、よくわきまえていたはずなのに、長い移動と時差からくる疲れもあっ
て気が緩み、無意識なままついついやってしまったのでした。
フランチェスカさんは上品な70代半ばのシニョーラ(淑女)。心なし か彼女の眉のあたりが、ピクンと揺れたような.....
しまったなぁと思いながらも、あらためて誤るのも妙なことで、知らん 振りをして、静かに丁寧に、まるで不安定な台の上に繊細なヴェネツィア
ングラスを置くように、ふた口めのスープを舌の上にそっと置いたのでし た。
お詫び
イタリア滞在中の為、今月は発行日が変則的になっています。
勝手をお許し下さいね。
|
|
|
|