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前回書いたように、ミラノマダムの友人から”野菜のラグー”を教えて もらってから”ラグー”というイタリア語が私の中で広がりを持ち始めま した。
おなじみのボローニャ風肉のラグー(日本ではミートソースとして おなじみの)だけでなく、野菜のラグー、魚介のラグーという具合に。
さて、その”魚介のラグー”に初めて出会ったのはアドリア海沿いの小 さな町でした。もう6年も前になりますが、その年私は手打ちのパスタを
習いたくて、手打ちパスタの本場、イタリア中部のエミリア・ロマーニャ 州に滞在することにしました。ホームステイ先はその前年迄イタリア語を
習っていたイタリア青年の実家。
日本での留学を終えてイタリアに戻った 彼から「僕のマンマはとても料理上手だから、ぜひラヴェンナの我が家に 来なさい」とのうれしいお手紙を頂いて、モザイクで有名なこの美しい街 を訪ねました。
彼の家では手打ちパスタだけはマンマでなくパードレ(パパ)の担当。 60代半ばの父上が毎日私の為にエミリア・ロマーニャ州の伝統的なパス タを始め、イタリア各地に伝わる手打ちのパスタを教えて下さいました。
ラヴェンナの中心から東側に車で20〜30分走るともうアドリア海に出
ますが、この海沿いに彼の家はセカンドハウスを持ち、週末にはここにご 一緒しました。野生のルコラが周囲に生え、新鮮な魚介類が毎日食卓にの
ぼり……、とそんな環境で出会ったのが”いかのラグーのパスタ”を始め とする魚介のラグーでした。
いかのラグーは、まずいかをフードプロセッサーにかけてそぼろ状に刻 みます。包丁で刻んでももちろんOK。にんにくをオリーブ油で炒めたら
刻んだいかを加えてさっと炒め、白ワインを注いで煮詰め、トマトの水煮 缶を加えて塩をし、20分ほど煮込むだけ。好みで赤唐辛子で辛味をつけ
ます。
材料がいかなので淡白な味わいかと思うと、意外にもいかが自分自 身を主張して個性的な味わいになるのです。えびのラグーも習いましたが 同様に。こちらは誰にでも好まれる親しみやすい味わいです。
余談ながら、プロフェッショナルなリストランテの厨房は別として、一 般の家庭ではその土地にないものをわざわざ遠くから取り寄せて食べると
いう発想はあまりありません。ですから山あいの地域では当然のように肉 類の料理が多く、海に近い地域では魚介類を使ったおかずが多い、という
のがイタリア流。それはとても健全なことのように思え、なんだかホッと するのです。ですから魚介のラグーも、海沿いの土地に滞在していたから
こそ自然に出会ったレシピだったのでしょう。
魚介のラグーというと、もう一品忘れられないレシピがあります。
2年前の春、ローマの北に位置するオルヴィエトという街の郊外にある、 イタリアでもトップクラスのリストランテにお世話になりました。この店 の料理はひと皿ひと皿が「さすがプロ!」と思わず感嘆するような技と素 材で緻密に組み立てられていて、繊細で優雅な味わいは食べるだけでも勉 強になります。
で、たとえ独りでもディナーだけはできるだけ店のテーブ ルできちんと食べていたのですが、実は私にとって何より得がたい経験と
なったのが、20人近いスタッフが細長い大きなテーブルをはさんで一同 にとる”まかない”でした。
ある日のまかないに出たのが、魚介のラグーのパスタ。これはえびや白 身魚などの数種類の魚介がミックスされていた点が新鮮に思えてそう感想
を言うと、「これはね、リストランテの料理で半端に残った魚介を利用し たんだよ」と賄い担当の料理人がそっと教えてくれました。
実はボローニャ風ラグーについても同様のことを知り合いのマンマから 聞いていました。「牛、豚、鶏肉……と残った肉類はなんでも入れるのよ。 ラグーって本来そうして生まれた家庭料理な訳だし、そのほうがずっとお いしくなるんだから」と。
家庭料理に通じる余りもの利用としての魚介のラグー。それ以来うちで は肉だけでなく魚介にもこの考え方を採用し、いか、えび、ほたてなどが
半端に残ると冷凍パックに放り込んで、ある程度たまるとミックス魚介の ラグーを作っている訳です。
P.S. なお我が家風の”魚介のラグー”と”ボローニャ風 肉のラグー”の
レシピは昨年11月発売の「イタリアン定食」(NHK出版)に掲載していますのでよろしかったらご覧になって下さい。 |
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